学長ブログ

シニアのタイパ

 私は今年の入学式の式辞で、生まれた時に一つの銀行口座が与えられ、そこに生涯手にするお金が振り込まれています。支払いが必要な時にはいつでもお金を引き出せます。働く必要はないが、何をするにもお金が出ていきます。なにもせずに椅子に座っているだけでもお金が出ていきます。寝るだけでもお金がかかります。お金を節約することもできません。口座の残高を知ることはできません。お金を使い切ってしまえば生きていくことは不可能となります、という話を紹介しました。

 この話、口座に入っているのはお金ではなく時間だという話なんです。生まれた瞬間、生涯という時間が与えられます。その総量はだれにもわかりません。与えられた時間は一瞬一瞬減っていきます。時間は大切なものです。お金と違い節約ということができません。貴重な時間をどのようなことに費やすか重要なことです。コスパという言葉のほかに、最近、タイパ、タイムパーフォーマンスという言葉をよく耳にします。タイパを考えるということは、ある事柄がそれだけの時間をかける価値があるのかと検討するということです。有意義な時間の使い方、時間の過ごし方を考える必要があります。

 漫画の世界ではドラえもんの秘密道具に「時間貯金箱」というのがあります。のび太はその貯金箱に時間をいっぱい貯金して必要な時、例えば宿題がたまってしまった時などに引き出して使っています。一方で貯蓄という形で時間を奪われるという話があります。ドイツの作家ミヒャエル・エンデの児童文学作品「モモ」に「時間貯蓄銀行」というのが出てきます。ある日、町に灰色の男たちがやってきて、町の人たちから時間を奪い始める。豊かになること以外に使う時間は無駄なものだと人々を説得し、人々に時間を倹約して自分たちに預けることを勧めます。節約した時間は「時間貯蓄銀行」に貯蓄され、それが富を生むと説明されます。街の人々は「時間泥棒」に時間を搾取され、忙しくなって心の余裕をなくしていくことになります。

 若いときには時間が足りないとき、通常は睡眠時間を削っていたものでした。一日3時間の睡眠で試験に備えたり、終電車まで残業したりもしたものでした。仕事や勉強でなく遊ぶにも時間は必要で、時間が足りないという人は多いのではないでしょうか。一方で退職し、シニアになると時間を持て余すことになります。これといってしなければならないこともなく、自宅に引きこもって新聞を隅から隅まで目を通して、テレビを眺めて1日が終わるという生活になってしまうことも少なくありません。

 時間は貴重なもので、それはある意味お金以上のものだということができます。時間をどう使うかということは自分の人生をどう生きるかに関わってくるとも言えます。退職してシニアとなって、どのような生活をするかを考えた時、シルバーカレッジのような高齢者大学に入学するというのも一つの選択肢です。入学するとクラスに友人ができます。クラブに入るとそこでも別の友人ができます。いくつかのクラブに入ると友人はもっと増えます。シルバーカレッジに入ると無二の親友が見つかると言っているわけではありませんが、顔を合わせたら日常会話が交わせる友人ができるということです。そんな友人もシニアには大切な存在です。シニアに居場所があって、そこにそんな友人がいる。そんな友人と時間を過ごすということもタイパのよい時間の過ごし方といえるように思います。