お笑いコンビ「サンドウィッチマン」の「病院ラジオ」
お笑いコンビ「サンドウィッチマン」の「病院ラジオ」
神戸市シルバーカレッジ学長 前田 潔
「病院ラジオ」はNHKで2018年から不定期に放送されている番組で、お笑いコンビ「サンドウィッチマン」の伊達みきおさん、富澤たけしさんが全国の病院に出張して特設のラジオ局を開き患者さんやその家族、医療従事者の話を聴くものです。患者さん達の普段なかなか言い出せない思いに耳を傾け、言葉を引き出す内容です。
サンドウィッチマンの2人が番組ロゴの入った車で病院に乗り付ける場面から「病院ラジオ」は始まり、車を運転してその街を去るところで終わります。ふたりが病院を訪れ院内にラジオブースを設置し、院内にいる患者さんたちには「時間があったら(ブースを)見に来てね」などと自ら呼びかけます。設置されたスピーカーやスマートフォンを通じて流れるのは、院内だけで聞くことができるローカルラジオです。パーソナリティーとなった2人は、患者さんたちの話を聞き、それぞれからの歌のリクエストをし、それを放送するものです。毎回1時間の間に5~6組ほどの患者さんとその家族、医療従事者が登場します。
今年の1月13日には神戸市長田区の神戸市立医療センター西市民病院から放送されていました。私はたまたまそれを観ていました。認知症の妻とふたりで美容院を経営する夫婦、慢性腎不全で腎移植の機会を待ちながら1回4時間、週3回血液透析を受けている40代女性、子宮と大腸と胆のうに障害があってロボット手術を受けた84歳の在日韓国人の女性などが出演していました。認知症の妻は自分の年齢が答えられないのですが、美容院では「仕上げ」に関して今もほかの人にやらせないということです。腎不全の女性はもう15年も透析を受けていて、透析室では看護師さんたちと友達になっているということでした。在日の女性は長田区で有名な冷麺店を60年やっているそうで、子どもや孫が一緒にラジオを聞いてくれていました。
感心したのはサンドウィッチマンのふたりの患者さんたちとのやり取りです。とくに伊達みきおさんは髪を茶色に染めてオールバックにして友達にはしたくない見てくれですが、出演者への心遣いはなかなかのもので、「お歳を伺ってもよろしいでしょうか」とか、なにかあると「ありがとうございます」が口を突いて出てきます。もうひとりの富澤たけしさんは気を遣う性格のようで、控え目ですが、伊達さんを制御している感じです。二人ともお笑い芸人とは思えない言葉使いをします。このコンビは2007年にM1グランプリで優勝している実力漫才コンビです。その話術は同業者の間でも評価が高いとのことです。
大きな病院の患者さんは皆大病を抱えています。死と隣り合わせで暮らしている人も少なくありません。腎不全の女性にしても4時間の血液透析を週3回、15年以上にわたって受けているということは大変な苦痛のはずです。普通の生活ができない状態です。そんな大病を抱えていても生きていかなければなりません。それを、皆が知っているお笑い芸人に聞いてもらえる、テレビを通じて放送してもらえるということでマイクの前では楽しそうでした。お笑い芸人は生来性にひとを楽しい気持ちにさせてくれる人種です。私たちも取り入れなければならないひとを楽しくさせる技術を持っているようです。