ダウン症のマリンバ奏者
ダウン症のマリンバ奏者
神戸市シルバーカレッジ学長 前田潔
第28回KSC同窓会総会に招かれて出席してきました。KSCが開設されて今年で31年になりますから、同窓会はKSCに3年遅れて発足したことになります。第1期生が卒業してすぐに同窓会を作られたのでしょうか。これは水越会長に確認する必要があります。
今年の総会の第2部アトラクションは「ダウン症のマリンバ奏者」コンサートで、多田駿介さんのマリンバ演奏でした。多田さんは27歳、猪名川町でご両親と3人で暮らしておられます。外国に演奏旅行に出かけたり、プロと共演したりする腕前です。当日はお母さんが司会をされ、演奏曲の紹介の合間に多田さんの幼かった頃のことや子育ての大変さをお話しされます。多田さんはダウン症ですから知的障害があります。音符も読めないそうです。ですから1曲マスターするのに半年はかかり、少し演奏しないと忘れてしまうそうです。いまは介護施設で介護助手として働きながら、地域では小学生の登校みまもりのボランティアをしているそうです。
演奏のうまい下手は私にはわからなかったですが、多田さんの集中、緊張の様子はよくわかりました。お母さんの心配げな様子も。私が医学生だったころに学んだ小児科では、ダウン症の子どもは皆、例外なくいつも機嫌が良くて人懐こい、というものでした。ひとを疑うことを知らず、ひとは善意で行動すると思っているということです。多田さんも例外ではないように見受けました。
その2、3日前に私はKSCの図書室で、多良久美子さんという普通の主婦の書いた「80歳。いよいよこれから私の人生」という本を借りて読んでいました。多良さんは81歳。80代の夫と50代の障害を持つ長男さんと3人家族です。長男さんは4歳の時にかかった麻疹のせいで知的障害があります。多良さんは高校生の時にお父さんが他人の保証人になったために破産し、大学進学をあきらめ就職をしたそうです。ふたりの子供に恵まれましたが、長女さんをがんで亡くすという波乱万丈の人生だった方です。
多田さんのお母さんと多良さんに共通するのは障害を持つ子の母親ということです。ご苦労をされたことでしょう。おふたりともまわりの人の助けを感謝されています。まわりの人の援助がなければやってこれなかったと書かれています。おふたりとも、親が死んだあと、子どもは施設に預かってもらうことになるという覚悟をされているようです。
同窓会総会で私が最も感銘を受けたのが会場の雰囲気でした。多田駿介さんの演奏を聞き、お母さんの説明に耳を傾けているときの会場の人たちの表情でした。会場の人たちは皆笑顔で会場は温かい空気に満ち溢れていました。会場の人たちの笑顔はこの上もない慈愛にあふれた天使のような笑顔でした。とくに会場にいた女性たちの笑顔が素敵で、皆、絶世の美女に見えました。会場にいた人たちの気持ちの温かさ、笑顔を見たことで私は心が洗われる思いでした。多田駿介さん、お母さん、KSC同窓会、ありがとうございました。