畑正憲さんと動物の社会的欲求/承認欲求

学長ブログ 2023.04.16

「畑正憲さんと動物の社会的欲求/承認欲求」

動物学者畑正憲さんが4月5日に亡くなった。畑さんというといつも笑顔を絶やさないという印象がある。この人は怒りとか不機嫌とは縁のない人のようである。

神戸新聞が6日に評伝を掲載している。動物園には必ずと言っていいほど問題行動があって飼育員が持てあましている動物がいるとのことである。なぜ暴れるのか? なぜ攻撃的になるのか?それは「周りに自分が受け入れてもらえていない」と感じ、疎外感という大きな空虚を抱えているからなんです、とのこと。誰も自分を理解してくれていないという孤独感から攻撃的な行動に走るという。次第に心を閉ざして問題行動に出るらしい。だから畑さんは「ようし、大丈夫だ、本当はおまえ、いい子なんだ」となでてやるのだと。最初は攻撃してくることもあるが、それを大きな気持ちで受け止める必要があるという。

私は今年のシルバーカレッジの入学希望者を対象にした学校説明会で「シニア世代の生きがい」というテーマでマズローの欲求5段階説というのを紹介しました(図)。それによると人間の欲求には5段階あって、ひとは第1段階の欲求(生理的欲求)が満たされることを求め、それが満たされると2段階目の欲求(安全欲求)を満たされることを求める。生理的欲求とは食べ物や温かさなどを満たそうとする欲求である。安全欲求とは文字通り危険にさらされないことに対する欲求である。それらが満たされると社会的欲求(所属と愛)として組織や集団に加わること、その一員と認められることを望むという。社会や集団の一員に加えてもらい愛情を受けることができると4段階目は承認欲求になる。承認欲求とは集団の中でリスペクトされたいという欲求である。

動物に生理的欲求や安全欲求があることは容易に想像がつく。社会的欲求も承認欲求も動物園で飼育されている動物であれば飼育員との関係で存在すると思われる。動物園で問題行動を起こす動物は3段階目、あるいは4段階目の欲求が満たされていないと言えるのではないか。

そこで当シルバーカレッジの学生さんたちはどうかと気になっている。カレッジ生のほとんどは第一線から退いた人たちである。毎日通勤しなくてもよいとか、子どものために走り回らなければならないこともなくなっている。やりたいことに割く時間もいっぱいある。現役でないということは責任も軽くなっている。年金も多くはないが生活には困らない程度には入ってくる。一方で自分の所属する組織や周りの人からはぜひ必要な人とは見てもらっていないのではないか。長年勤めあげて無事退職を迎え、子どもも育て上げ、子どもたちは親と関係なく自分の人生を生きている。そんな立場でもつ4番目の欲求、承認欲求は控えめとなってくる。大したことはできないが縁の下の力持ち的に他人さまのお役に立てたら、社会に貢献出来たらと考える。

さて問題は5番目の欲求、自己実現欲求である。自己実現欲求とは「あるべき自分になりたい、自分が理想と考える自分に近づきたい」という欲求である。これが最も高次の欲求とされている。成長したいという欲求である。シルバーカレッジ生は上に書いたように例外なくシニア世代である。成長とは縁の薄い世代と受け取られているかもしれないが、ひとは人生の残りがわずかになっても昨日よりは少しでも成長したいという意識を生きがいとする必要かもしれない。

(https://ameblo.jp/haimegami37/entry-12247366549.html)